独占欲を秘めた御曹司が政略妻を再び愛に堕とすまで
それで以前痛い目を見たのを忘れてはいけない。

今だって晴臣を責めても何一つ良いことはないだろう。

「瑠衣……」

いつになく攻撃的な妻に動揺しているのか、晴臣の顔色が悪い。

「もしかして他に好きな人がいるの?」

晴臣が驚愕したように目を見開く。

「瑠衣? どうして急にそんなことを言うんだ?」

「そう感じるから」

「俺は瑠衣の夫だ。他に女なんている訳がないだろう?」

「でも……」

(それならどうして私を抱かないの?)

三十歳の男性に性欲がないはずがない。
現に半年前までの彼は瑠衣がぐったりする程体力に溢れていたのだから。

胸が痛くて夫を見つめていられなくなった。

目を逸らすと晴臣の口から大きなため息が漏れて、それが瑠衣を余計に苦しくさせた。

きっと、面倒な女だと思われたのだ。

「今はお互い冷静とは言えない。この件については後で話し合おう」

「……分かった」

時間が経てば曖昧になってしまうだろう。夫が話し合いを避けたことに落胆した。

だけどこれ以上追及することは出来なくて、瑠衣は不本意ながら口を閉ざした。
< 49 / 108 >

この作品をシェア

pagetop