独占欲を秘めた御曹司が政略妻を再び愛に堕とすまで
晴臣は瑠衣よりも大人だから、ヒステリックな妻に怒ったりはしなかった。
しかし心の中ではうんざりしているのだろう。
いつもより素っ気ない「おやすみ」でベッドに入る。
灯りを消しても隣のベッドの彼が背中を向けて眠っているのが見える。拒絶されているような気がした。
実際されているのかもしれない。
(あーこのマイナス思考を何とかしたい)
こんな風にぶつかることを恐れるようになったのは、過去の恋愛が原因だ。
初めての恋人に騙され惨めに捨てられたから。
その時に、ショックで感情的に相手を責めたことで、彼が周りの人たちの同情を買い、ふられた自分が悪者のようになってしまった。
理不尽さに心がずたずたに傷ついて、立ち直るまでに長い時間を必要とした。
晴臣と出会い、傷は癒えて来ているけれど。
(気持ちのままぶつかってまた拒否されたら……)
あの時の恋人と晴臣は違う人間だと分かっているけれど、踏み出すのが怖い。
失恋の傷なんて乗り越えたと思っていたのに。
(このままじゃ駄目だ)
中途半端に問い詰めてしまったせいで、晴臣と舟木美帆の関係は謎のままだ。
この先、知る術もないだろう。瑠衣が疑っていると気付いた晴臣が、何らかの対策をするだろうから。
(でも……結局私はどうしたいの?)
流れで問い詰めてしまったけれど、本当に夫に恋人がいると判明したとき、どうするのか決めていない。決められない。
身を引いて離婚する覚悟なんて全然ないのだ。
(一度自分を見つめ直そう)
そして、この後の事を考える。
晴臣と顔を合わさないようにしたら、冷静さを取り戻し視野が広がるはず。
そう決意した瑠衣は翌朝、晴臣に宣言した。
「晴臣さん、私実家に帰ります」