独占欲を秘めた御曹司が政略妻を再び愛に堕とすまで

「え? まだ早いのに、もう少しいいんじゃない?」

引き留めようとする瀬尾に、那々はいかにも残念そうに肩を落とす。

「そうしたいんだけど明日の仕事が現場でハードだから早めに休まないと」

「へえ、大変だな」

「そうそう。力仕事頑張ります」

那々は瑠衣を促すように肩にポンと手を置く。瑠衣が立ち上がると、瀬尾が慌てたような声を上げた。

「え? 瑠衣はいいだろ?」

「ごめんなさい。瑠衣も同じ仕事なの。同僚だって言ったでしょ?」

那々はぴしゃりと言い瀬尾を突き放した。

店を出ると那々は疲れを取るようにぐっと腕を伸ばした。

「ああ、窮屈だった」

「那々……もしかして何か気付いてた?」

彼女の先ほどからの態度で、そう感じた。

「気付いてたって程じゃないけど、瑠衣はあの人が嫌なんだろうなってのは分かった。だとしたら私も関わらない方がいいでしょ?」

瑠衣は理由もなく人を嫌いになったりしないしと那々は笑う。

「ありがとう。ちょっと嫌な別れ方をしたから関わりたくなくて」

「そうなんだ。まあ遊んでそうな人だよね」

「よく分かるね」

瀬尾は一見、誠実そうに振舞っていたと言うのに。
< 72 / 108 >

この作品をシェア

pagetop