独占欲を秘めた御曹司が政略妻を再び愛に堕とすまで
「……夫と親しいのだとしても私は距離を置きたいと思っています。今後は電話に出るつもりはないのでそのつもりで」
『なんだよ固いな。俺は昔みたいに付き合いたいと思ったのに』
「昔みたいって何言ってるの? 私は既婚者なんだけど」
『不倫なんて珍しいことじゃないだろ? 俺の周りにも大勢いるよ。晴臣だってしてるかもしれないだろ?』
瀬尾の発言はただでさえイライラとしている瑠衣の神経を逆なでした。
「夫はあなたと違います。浮気なんてしていません」
自分も疑っていたことは棚に上げて宣言した。
本音を言えば晴臣が潔白かは分からない。それでも他の人にとやかく言われたくなかった。
『ふーん、信じてるってやつ? 相変わらずおめでたいな』
瀬尾はわざと瑠衣を怒らせようとしているのだろうか。
(挑発して私がむきになるのを待ってる?)
かつての記憶が蘇る。泣きわめいた瑠衣を、一方的にヒステリーの暴力女に仕立て上げた瀬尾だから、今も何か企みがあるのかもしれない。
(落ち着かなくちゃ)
あの時のようにまんまと罠に嵌ったりはしない。瑠衣は瀬尾に聞こえないようスマホを口元から外して深呼吸をした。