御曹司は恋人を手放さない
涙が滲み、怯えた目で結衣は尚を見上げる。尚はどこか楽しそうに、どこか悲しそうに、結衣に触れていく。しばらく体に触れられた後、唇を奪われた。

「名前、呼んでくれるまだ放さないよ?」

何度もキスをされた後、尚が結衣の頬を撫でる。結衣の瞳から涙がこぼれ落ちると、その涙を尚は愛おしそうに拭う。その瞳が、どこか結衣に恐怖を与えた。

「……な、尚先輩……」

結衣が消えてしまいそうな小声で何とか尚の名前を呟くと、尚は蕩けるような表情になり、「ようやく呼んでくれた!」と笑顔を向ける。

「本当は呼び捨てが良かったけど、今日はいっぱいキスができたら許してあげる。……結衣、大好きだよ。結衣も俺のこと、好きだよね?」

「……はい。尚先輩のこと、大好きです」

早く解放されたい、その一心で恐怖に心がいっぱいになりながらも結衣は嘘をつく。尚は頬を赤く染め、「可愛い結衣がいて、幸せだよ」と言いながらまた唇に触れる。
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