御曹司は恋人を手放さない
そして、尚が高校を卒業をする前日がやってきた。お金持ち学校のため、卒業式の準備は在校生ではなく雇った人たちがしてくれる。そのため、結衣たち生徒は自宅待機となっていた。

家でのんびり過ごしていた結衣のスマホが振動する。尚からLINEが送られてきた。

「よかったら、俺の家に遊びに来ない?」

尚の家には行ったことがない。いつもデートはどこかに遊びに行っていた。ごく普通のカップルならば、家に誘われると嬉しくなるものだろう。だが、結衣はため息をついている。

「断ると怖いからね」

結衣は絵文字などを使って明るい文章を作り、それを送信する。すぐに既読がつき、それから数分もしないうちに家に高級外車が迎えに来て、「会えて嬉しい」と尚に抱き締められながら尚の家へと向かったのだ。

尚の家は高級住宅街にあるのだと結衣は勝手に想像していたのだが、連れて行かれたのは郊外にぽつんと建てられた大きな屋敷だった。

「父さんたち、騒がしいところが好きじゃないんだ。だからこんなところに家を建てたんだよ」
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