御曹司は恋人を手放さない
「尚先輩、この部屋は一体どなたの部屋なんですか?」

尚には妹や姉どころか、兄弟がいない。仮にいたとしても、自分の兄弟の部屋まで見せる人はいないだろう。

頭にクエスチョンマークを浮かべる結衣を尚は愛おしげに見た後、「これ見て」と言いなながら大きなクローゼットのドアを開ける。そこには、リボンやレースのたくさんついた可愛らしいワンピースが何十着とかけられている。

「可愛いでしょ?これは全部結衣のために揃えたんだ」

「えっ、あたしのため?」

「うん。ここで結衣は暮らすんだからね」

「えっ?」

高校を俺が卒業したら、この屋敷に引っ越してきて一緒に暮らすんだよね。そう尚は嬉しそうに話す。だが、結衣は「一緒に暮らしたい」などと言った覚えはない。

「尚先輩、一緒に暮らすのはまだ早いんじゃ……。あたし、まだ高校生ですし」

「えっ、何言ってるの?結衣は高校を退学するんでしょ?それでここで暮らすんでしょ」

「えっ?」

戸惑う結衣の前で、尚は同棲した後の生活の話を楽しそうに話している。だが、その内容は結衣の耳には入ってこない。
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