御曹司は恋人を手放さない

「ちょっと退いてくれる？」

尚はそう言い、お嬢様たちをかき分けて結衣の方へと歩いてくる。驚いて固まる結衣の前で尚は立ち止まり、王子が姫君にするようにその場に跪いた。周りから悲鳴が上がる。

「好きです。俺と結婚を前提にお付き合いしてくれませんか？」

「えっ！？」

みんなから注目され、王子様と陰で呼ぶ女の子もいるような存在に告白をされている。周りからは「何であの子が？」と言いたげな目が突き刺さり、これが現実なのかわからなくなっていく。

「ダメ、かな？」

戸惑う結衣の手が優しく尚に取られ、その手の甲にキスを落とされる。チュッと響いたリップ音と、尚の唇の感触、そして周りからの悲鳴と嫉妬の混じった視線に、結衣はこれは現実の出来事なのだと実感させられる。

「あなたとあたしは釣り合わないので、お付き合いできません！！」

真っ赤に染まった顔で結衣は「ごめんなさい」と謝り、グラウンドから走って立ち去る。心臓がいつも以上に早く動き、鼓動が伝わってくる。