御曹司は恋人を手放さない

そして、最初は尚と遭遇するのは学校の中だけだったのだが、次第に休みの日や放課後に街中で会うようになっていった。

「結衣、偶然だね。どこに行くの？」

「えっと、スーパーに買い物に……」

「じゃあ俺も一緒に行くよ」

「えっ、遊びに行くような場所ではありませんよ！」

結衣はついてほしくない一心で言ったものの、尚は「スーパー？俺も一緒に行くよ」と言い、人質と言わんばかりに持っていたかばんを奪われてしまう。

結衣が当たり前に見ているスーパーに尚は目を輝かせ、「こんな風に結衣は買い物をしているんだね」と言いながら結衣の隣に並んで買い物をする結衣をジッと見つめる。

俳優のようなイケメンが一般庶民しかいないスーパーにいることに注目が集まり、「あの子って彼女さんなのかな？」という声が聞こえてくる。結衣はただ恥ずかしくなり、俯いてしまう。

「結衣、俯いちゃダメだよ。結衣の可愛い顔が見れないでしょ」

尚に顔を覗き込まれ、唇が触れてしまいそうなほど近い距離に結衣の胸が高鳴る。結衣は慌てて「近いです！」と言いながら尚から離れた。顔が一瞬にして赤く染まる。