御曹司は恋人を手放さない
「そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに、可愛いね」

クスクスと笑いながら言われ、結衣は何も言えずに恥ずかしさを誤魔化すように近くにあった牛乳をカゴの中に入れる。

「可愛い」など、結衣は今まで異性にも同性にも言われたことがなかった。目は一重で、肌は一年中小麦色、身長も他の女の子よりも高く、筋肉質。守ってあげたくなるような可愛らしい女の子とはお世辞にも言えない。

(どうして、こんなあたしに「可愛い」なんて言うんだろう……)

必要な食材を買い、レジでお金を支払ってスーパーを出て、結衣と尚は並んで歩く。しばらくの間は無言だったのだが、不意に尚に結衣は腕を掴まれた。

「天王寺先輩?」

結衣が横を見れば、尚の真っ直ぐな瞳が結衣の目に映る。尚がそっと結衣の頬に触れた。尚の指は、まるで女性のように華奢で芸術品の一種のように美しい。

「結衣、好きだよ。どうしようもなく愛してるんだ。君がいればもう、何も俺はいらない」
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