愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)
00 竜神と、九人の聖女のはじまり
後の世に『竜神』と呼ばれることになる、その異形の存在は、九人の乙女を選び、試すように問いかけた。
「お前は、この世で最も強い力とは何だと思う?」
当時、まだ何者でもなかった無垢なる乙女たちは、それぞれが、それぞれの苦境にあえいでいた。
「そんなの『武力』に決まっているじゃない。この世は所詮、力がモノを言うのよ」
ある乙女は挑戦的にそう言った。
「剣も槍も、お金が無ければ買えません。結局は『富』が全てを支配しているのではないでしょうか」
ある乙女は考えた末にそう答えた。
「もしも未来を視ることができたなら、どんな不幸も避けることができるのに……」
ある乙女は夢見るように呟いた。
「不死の肉体……永遠の『命』があれば……無敵なのでは?」
気まぐれな問いかけに、乙女たちは思い思いの答えを返す。
『竜神』は、彼女たちの導き出した答え通りの力を、手のひら大の水晶の珠に籠めて贈った。
力を手にした乙女たちは、竜神の宝玉を守る聖女として、人々の崇敬の念を集めるようになる。
やがて、乙女たちを建国の祖とし、大陸に九つの国が興った。
九つの宝玉のひとつ『光の宝玉』を守るリヒトシュライフェ王国も、そのひとつ。
その建国の姫の名は、マリア。『竜神』に問いをかけられた八番目の乙女だった。
マリアは『竜神』にこう答えた。
「この世が人によって動かされているならば、人の心を動かすものこそが、最も強い力でしょう」と……。
その答えに『竜神』は笑った。
「おもしろい。人とは時に、思いもよらぬ答えを出してくるものよ。ならばお前には、人を魅了する力を与えよう。人の心を捕らえ、奪い、己がものとする力を……」