愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)
「どうしてお兄様は、いつもそうなの!? 最後にはいつも、私のワガママを聞いて!私、ひどい女でしょう!? 散々お兄様を振り回して、冷たいこと言って、ひどいことして……。なのに、どうして私のこと嫌いにならないの!? 」
返ってきたのは、どこか呆れたような、それでいてひどく優しく響く声だった。
「今更、嫌いになどなるわけがないだろう。私が何年お前を見てきたと思っている。お前のわがままな所も、意地っ張りな所も、ひねくれた所も、優しさも不器用さも長所も欠点も、全て知っている。お前が宝玉姫としての運命を厭いながらも、必死にそれに耐えてきたこともな」
シャーリィは最早、言葉を返すことができなかった。こみあげてくる嗚咽を堪えることができない。
兄の胸に顔を埋めたまま、これまでより更に激しく泣きじゃくる。
(どうしてなの。どうして、お兄様はそんな人なの。止められるはずがない。そんな風に大事にされて、好きになるのを止められるわけないじゃない!)
兄の胸は温かかった。そして、他のどんな場所より安心できた。数ヶ月ぶりに訪れた安らぎに、シャーリィの心が凪いでいく。
シャーリィの嗚咽はだんだんと小さくなり、そのうちに、ぴたりと止んだ。
ウィレスの胸にかかる体重が、心なしか重くなる。ウィレスはそっとシャーリィの顔を覗き込んだ。
シャーリィはウィレスの胸にもたれかかったまま、瞳を閉じ、静かな呼吸を繰り返していた。