愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)
「……シャーリィ、眠ったのか?」
眠りと現実の境をさまようシャーリィの耳に、探るようなウィレスの声が聞こえる。
シャーリィは口を開こうと思ったが、できなかった。
シャーリィが動かないのを見てとると、ウィレスは壊れ物にでも触れるように、そっとその髪に触れた。
「いいんだ。お前は。どんなわがままを言っても、冷たいことをしても……そばにいてくれるなら。都合良く言うことを聞いてくれる道具としてでも、苛立ちをぶつける相手としてでも、お前が俺を必要としてくれるなら、それだけで……。それが、俺の生きる意義だから。だから――お前はもっと、俺を利用して良いんだ」
(……お兄様)
シャーリィはその言葉に、胸が詰まるような幸せを感じた。
本当は、すぐにでもその想いに応えたかった。
自分も好きなのだと伝えたかった。
だが、急速に眠りへと堕ちていく意識の中では、唇を動かすこともできない。
(お兄様……好き。大好き。お兄様がそばにいてくれるなら、私、王女じゃなくてもいい。お父様とお母様の本当の娘じゃなくても……。待ってて。ちゃんと応えるから。今日はもう、ちょっと言えそうにないけど……でも、明日になったら、きっと言うから。私の方から、好きだと言うから……だから……)
優しいぬくもりに包まれて眠りに堕ちていくシャーリィは、まるで疑っていなかった。
自分が愛を告白したなら、兄は必ず、それに応えてくれるはずだと。
翌日、決意した通りにウィレスに告白した自分が、手酷く拒絶されることになるなど、彼女はこの時、予想だにしていなかったのだった。