愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)
22 思いがけない拒絶

「……どうして?」

 シャーリィは信じられないものを見るように、目の前の顔を見つめた。
 その顔は相変わらず、長い前髪に隠れて表情を(うかが)うことができない。

「気でも触れたのか、シャーリィ。私とお前は兄妹(きょうだい)なのだぞ」
「本当は違うのでしょう?私はシュピーゲル公爵家次女と、シュベルター公爵家の元御曹司の間に生まれた子。お父様とお母様の本当の子は、私ではなくルーディのはずよ」

「……誰に聞いた。そんなでまかせを」
「でまかせ?何故そんなことを言うの?お兄様だって知っていたのでしょう?だから、私のことを愛していると言ったのではないの?」

 瞬間、ウィレスは凍りついたように動きを止めた。
 だが、すぐに何事もなかったかのように口を開く。

「何のことだ。私はお前を愛してなどいない」
「嘘!あの夜、言ったじゃない!あの仮面舞踏会の夜に、私を抱きしめて『愛している』と言ったじゃない!」
「……それは、私ではない」

 動揺するかのようにわずかの間を置き、それでもウィレスは感情の()もらぬ声で告げた。シャーリィの瞳が戸惑いに揺れる。

「……どうして?私のことを愛しているのではないの?」
「愛してなどいない。私がお前に対して(いだ)いているのは、家族としての親愛の情だけだ」
「私の恋人になってはくれないの?」

 ウィレスはしばらくの間、無言だった。
 何かを(こら)えるように、きつく拳を(にぎ)()め、そのうちやっと、(しぼ)り出すように告げる。

「そのような禁忌の恋、許されるはずがないだろう」
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