愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)
「お兄様!私と一緒に逃げて!真実を秘めたままでも、禁忌の恋だと誤解されても構わない!全ての恥と罪を私達二人がかぶって、それで丸く収まるなら……。それで、誰も私達の顔を知らない、どこか遠い所へ逃げれば……」
シャーリィの必死の言葉を遮り、ウィレスは静かに問う。
「許されると思うのか、それが」
「……え?」
「王太子も宝玉姫も、簡単に代わりのきくようなものではない。その責務を、己の私欲のために放棄するのか。これまで支持してきてくれた国民全てを裏切って」
「でも……私は正当な宝玉姫ではないのに」
「それでもお前が宝玉姫だ。お前はその重さを、よく知っているはずだ。その重荷を他人に押しつけて逃げるつもりなのか?」
シャーリィの脳裏に、一瞬セラフィニエの顔が浮かんだ。
彼女に宝玉姫の運命を押しつけたくないと思ったのは、ほんの数ヶ月前のこと。
あの時のシャーリィはまだ、全てと引き換えにしても構わないほどの恋など知らなかった。だが、今のシャーリィは……。
「お兄様は……私を選んではくれないのね」
(違う。こんなことを言いたいんじゃない。お兄様を責めて、どうしようと言うの?)
理性を裏切り、唇が勝手に言葉を紡ぐ。
本当はもう、分かっているのだ。許されない恋なのだということくらい。
けれど、感情がどうしても納得してくれない。
数ヶ月悩み抜いて、ようやく告白することができたのだ。それなのに……。
「私より、王太子としての立場を選ぶと言うのね。私のために、全てを棄ててはくれないのね!」