愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)
(どうして、こんなことを言わなきゃいけないの。どうして……ただお互いに好きなだけでは駄目なの?)
シャーリィの瞳は涙に潤んでいた。
ウィレスはその瞳に縛られてしまったように、しばらくの間、身動き一つできずにいた。
「私は、お前に幸せになってもらいたいのだ」
「……何を言っているの、お兄様」
「何故、苦悩すると分かっている道を、あえて選ぼうとする?お前は、お前を幸せにできる男と結ばれるべきだ」
シャーリィの頬に皮肉な笑みが浮かぶ。涙を目にいっぱい溜めたまま、それでもシャーリィは微笑んだ。
「ひどいことを言うのね、お兄様……」
目尻から零れ落ちそうな涙の雫を、乱暴に手の甲で拭い、シャーリィは震えそうになるのを必死に堪え、毅然と口を開く。
「分かったわ。お兄様は、私が何を言おうと、受け入れるつもりは無いのね」
「……ああ」
「お気を煩わせて、ごめんなさい。……もう行くわ」
それだけを何とか告げ、後はもう堪らずに、ウィレスの元から駆け去る。
シャーリィの去った後、室内には壁を拳で殴りつける鈍い音が響き渡った。
「……何故だ。何故、俺なんだ、シャーリィ。こんなはずではなかった……お前を苦しめることなど、望んではいないのに」