愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)
(恋なんて、少しも甘くも幸せでもないじゃない。こんなに心が傷ついて……痛くて辛くて堪らないなんて……こんなの、暴力と同じだわ。こんなにも、想うたびに苦しくて堪らないのに、それでも想わずにはいられないなんて。それでもまだ好きだなんて……どういう自虐趣味なのよ)
決して来ないと分かっているウィレスを、それでも心の中で呼び続けながら、シャーリィはいつまでもそこで膝を抱えていた。
その時、ふいにシャーリィの耳が物音を拾った。階段をゆっくり上ってくる足音。
ウィレスが来てくれたのかと淡い期待を抱き、シャーリィは屋上の入り口に目を凝らす。だが階段を上って現れたのは……
「ここにいらっしゃったのですか、姫様」
「……アーベント?どうしてここに……」
予想もしなかった人物の登場に、シャーリィは思わず立ち上がり、目を瞬かせる。
アーベントには、まだこの場所を教えていないはずだった。
「申し訳ありません。姫様がこの塔に入って行かれるのを、たまたま見かけたものですから。邪魔をしてはいけないと思い、塔の外で警備しておりましたが、なかなかお出にならないので、こうして様子を窺いに……」
そう言って、改めてシャーリィの顔に目をやり、アーベントははっと表情を変えた。
「何か、悲しいことでもあったのですか?」