愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)
24 明かされる目的

 数分後――出発の予定時間を待たずして、一頭の馬が、突然(とつぜん)その場を離れて走り出した。
 その背には、手綱(たづな)(にぎ)るアーベントと、その前に横向きに座らされたシャーリィの姿。
 
 残りの親衛隊員達は、突然のことに(あわ)てふためき、それでも何とか後を追って来ようとする。
 それをあっさりと()いて、二人は猛スピードで森の中を駆ける。
 そうして予定していた時刻より、だいぶ早く目的地に辿(たど)り着いた。
 
 丘の頂上(ちょうじょう)で馬から()りると、シャーリィは真珠のように白い歯を見せて笑った。
「皆、すごく驚いていたわね。可哀想(かわいそう)に……」
「大丈夫ですよ。ちゃんと置手紙は残してきましたから。あんな状態では、少しも気分転換にはならなかったでしょう?乗馬の楽しみと言えば、風を切って走ることだというのに……あんな状態では、わざわざ馬に乗る意味が無いですからね」
「本当ね。あまりに速いから、少しどきどきしたけど……でも、とても楽しかったわ。帰りも、あんな風に飛ばしていってくれる?」
「喜んで」
 
 丘の上に吹く風に目を細め、シャーリィはゆっくりと街を見下ろす。
 リヒトシュライフェ王都フォルモントは、なだらかな起伏(きふく)の多い土地だ。
 その上に建つ街もまた、波打つように起伏を描いている。満月宮と同じ月砂石で造られた白い家々と、木々の緑とが美しいコントラストを描き、青く光る海へと続く。
「……綺麗(きれい)
 その景色に見入っていると、(つら)い恋のことも、何もかも忘れられる気がした。
 その時――ふいに後ろから抱きしめられ、シャーリィの心臓がどきりと()ねる。
< 111 / 147 >

この作品をシェア

pagetop