愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)
24 明かされる目的
数分後――出発の予定時間を待たずして、一頭の馬が、突然その場を離れて走り出した。
その背には、手綱を握るアーベントと、その前に横向きに座らされたシャーリィの姿。
残りの親衛隊員達は、突然のことに慌てふためき、それでも何とか後を追って来ようとする。
それをあっさりと撒いて、二人は猛スピードで森の中を駆ける。
そうして予定していた時刻より、だいぶ早く目的地に辿り着いた。
丘の頂上で馬から降りると、シャーリィは真珠のように白い歯を見せて笑った。
「皆、すごく驚いていたわね。可哀想に……」
「大丈夫ですよ。ちゃんと置手紙は残してきましたから。あんな状態では、少しも気分転換にはならなかったでしょう?乗馬の楽しみと言えば、風を切って走ることだというのに……あんな状態では、わざわざ馬に乗る意味が無いですからね」
「本当ね。あまりに速いから、少しどきどきしたけど……でも、とても楽しかったわ。帰りも、あんな風に飛ばしていってくれる?」
「喜んで」
丘の上に吹く風に目を細め、シャーリィはゆっくりと街を見下ろす。
リヒトシュライフェ王都フォルモントは、なだらかな起伏の多い土地だ。
その上に建つ街もまた、波打つように起伏を描いている。満月宮と同じ月砂石で造られた白い家々と、木々の緑とが美しいコントラストを描き、青く光る海へと続く。
「……綺麗」
その景色に見入っていると、辛い恋のことも、何もかも忘れられる気がした。
その時――ふいに後ろから抱きしめられ、シャーリィの心臓がどきりと跳ねる。