愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)
苦々しげに吐き捨てられたその言葉に、シャーリィははっと気づく。
「あなたの目的は……私を宝玉姫の座から退けて、新たな宝玉姫を選ぶこと……セラ姉さまを宝玉姫にするつもりなの?」
「答える必要は無い」
「セラ姉さまは、そんなこと望んでいないわ!」
「お前に何が分かる!? 」
アーベントは苛立たしげに声を荒げた。
「セラフィニエは宝玉姫になるべきなんだ。この国で誰よりも崇められ、誰からも愛される至尊の座……。セラフィニエより相応しい人間など、いるわけがないのに……」
アーベントの脳裏に、かつてシュタイナー家の城館で交わされた、公爵との会話が蘇る。
『可哀想なセラフィニエ……。本来ならあの娘が、宝玉姫となるはずであったというのに。あの王妃が、己が保身のために、子を入れ替えたりなどしなければ……』
『恐れながら……それは本当のことなのですか?いくら何でも、自分の子をすり替えるだなどと……』
『本当のことに決まっている。だから、お前は何としてでも、その証を見つけ出すのだ。さもなければ……分かっているだろう?』
『……婚姻のこと、セラフィニエは知っているのですか』
『まだ相手も決まっておらぬから、知らせてはいないが……薄々気づいてはいるだろう。だが、あの娘はちゃんと覚悟をしているよ。シュタイナー家のためになるなら、どんな相手との縁談も断らぬはずだ。さすがは我が娘。良く出来た子だ』
『セラフィニエが宝玉姫になれば、婚姻は延期してもらえるのですよね?』
『ああ。宝玉姫ともなれば、むしろ婚姻などさせず、求婚者どもからの貢物を搾り取れるだけ搾り取った方が得だからな。ぎりぎりになるまで婿など取らんよ』
『約束して下さい。俺は、絶対に王女の出生の秘密を掴んで来ます。だから、それまでセラフィニエの縁談は……』
かつてアーベントがシャーリィに語った身の上話は、半分が嘘。
シュタイナー公が家のために進めている政略は、アーベントではなく娘の縁談だった。アーベントはそれを止めるためにこそ、シャーリィの騎士となったのだ。