愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)

「あなたは利用されているだけよ!そんなの、セラ姉さまのためじゃないわ!シュタイナー家の利益のためじゃないの!そんなことのために、あなたが罪を犯すなんて、セラ姉さまが哀しむわ!」

 シャーリィの必死の説得に、アーベントはただ、自嘲(じちょう)の笑みを浮かべるだけだった。
「俺の手は、どうせ(すで)に、血にまみれている。どんな重い罪を背負おうが、それがセラフィニエのためになるなら……」
 言って、アーベントは手に持っていた剣を宙に一閃(いっせん)させた。
 それを合図に、周りを取り囲んでいた男達が、武器を振りかざし、シャーリィ目掛(めが)けて走って来る。

「やめて!」
 シャーリィは無我夢中(むがむちゅう)で叫んだ。
 胸元に隠していた光の宝玉が、その声に呼応(こおう)して光を放つ。
 (あた)りは一面、黄金の光に包まれた。

 男達は、思わず武器を取り落とし、両目を押さえて立ち止まる。
 光はやがて、空気に溶けるように薄れて消えた。
 が、男達はじっとシャーリィのことを見つめたまま、一向に動き出そうとしない。その唇からは、一様に、呆然(ぼうぜん)としたような(つぶや)きが(こぼ)れた。
(まぶ)しい……」
「……女神様だ」
「できません。こんな……こんな美しい姫君を、手にかけるなど……!」

 アーベントは舌打ちし、シャーリィを(にら)む。
「……光の宝玉に惑わされたか」
 言いながら、抜き身の剣をシャーリィに突きつける。

「お願い、やめて。セラ姉さまを救うなら、他に方法があるはずよ!片恋姫の運命なんて、セラ姉さまは望んでいない。あなただって、今まで私と一緒にいて、分かっているでしょう?宝玉姫の運命が、良いことばかりじゃないことなんて。どうして、そこまでして、セラ姉さまを宝玉姫の座に()かせようとするの?」

「……俺は、シュタイナー公には逆らえない」
「どうしてよ!? 育ててもらった恩があるからって、そんな……」
「そんなことじゃない!恩なんて感じていない!あの男は……俺を(にく)んでいるんだ!」
 シャーリィの言葉を(さえぎ)るように放たれたその叫びは、どこか悲痛な響きを含んでいた。
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