愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)
「母の死の真相を知った父と兄は、それ以来、俺をどう扱ったらいいのか分からないようだった。父も兄も、母のことを愛していたから……俺の浅慮で母が死んだのを許せなかったんだろう。結局、俺は家にはいられず、母の実家であるシュタイナー家に預けられることになった。……だが、シュタイナー公も、愛する姉を奪った俺を、許しはしなかった。初めて会った時に言われたよ。『私は、お前を厚意から預かったのではない。お前は、私の愛する姉を奪った。その罪を償ってもらわねばならん。お前はこれから一生、シュタイナー家のために働き、シュタイナー家のためにその手を汚せ』と、な」
元シュタイナー公爵家令嬢マリア・イレーネ――彼女のことを、シャーリィは肖像画や人の話でしか知らない。
しかし、とても美しく聡明な女性だったということは聞いている。
シュピーゲル家の双子姉妹がいなければ、彼女が宝玉姫に選ばれていたであろうという話も。それほど周りに愛された、魅力的な女性だったということも……。
「俺は、シュタイナー公の言葉を当然のことと受け入れた。母を死なせてしまった罰を、誰かに与えてもらいたかったのかもしれない。俺がシュタイナー家のために初めて人を殺したのは、十一の時だ。それ以来、何人手にかけてきたのか、覚えていない。だが、いいんだ。これは俺の罰であり、俺がセラフィニエを守れる、ただ一つの方法。セラフィニエが変わらず、あの場所で微笑んでいてくれるなら、俺は……」
「アーベント……」
シャーリィは思わずアーベントの名を呼んでいた。同情の籠もったその声に、アーベントははっと我に返る。
「……いろいろと喋り過ぎたな。だが、分かっただろう?何を言っても無駄だと。諦めて、覚悟を決めるんだな。このまま、俺に殺されるか……それとも、宝玉姫の座を自ら降りるか?自分が偽りの王女であることを、国民の前に明らかにして」