愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)
『ねぇアービィ。この花の名前、何と言うか知っている?』
景色は再び同じ庭。だが、季節も年も、先ほど見たものとは違うらしい。
少女はだいぶ大人びて、初夏の装いに身を包んでいた。
そして、目の前で風に揺れているのも、先ほどとは違う花。ひどく見覚えのある、その花は……。
『この花、貴婦人の耳飾りって呼ばれているのですって。ほら、見て。こうすると、本当に耳飾りみたいでしょう?』
言って、少女は摘んだ花を自分の耳たぶに添えてみせる。
シャーリィは、かつてのアーベントの言葉を思い出していた。
……一緒の家に暮らしていた従妹が花に詳しくて、私もいつの間にか覚えてしまっていたのですよ。
『花の名前なんか覚えたって、何の意味があるんだ。花なんか食えるわけでもないし、飾って眺める以外、何の役にも立たないじゃないか』
『まあ!意地悪ね。アービィったら』
怒ったように頬を膨らませてみせる少女。
だがシャーリィは少年が――アーベントが本当は、彼女に見惚れていたことに、気づいていた。
記憶は情景だけでなく、その時彼が覚えた感情までをも、シャーリィに伝えてきていたから……。