愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)
その時、一際大きな絶叫がシャーリィの耳を打った。
はっと意識を戻せば、白金の竜は恐ろしいほど巨大に膨れ上がり、その顎を大きく開いていた。
今にも、アーベントの身体を丸呑みにしようというように……。
シャーリィは直感する。
これが、最後だ。ここでアーベントの身が、全て呑み込まれてしまえば、彼のセラフィニエに対する想いも全て消え去る。
その想いは、シャーリィに対する想いへと書き換えられ、アーベントは光の宝玉の支配下に堕ちる。
「待って!駄目っ!やめて!」
(呑み込ませてはいけない。ふたりの恋を……本当はお互いに想い合っていたのに、こんな形で終わらせてしまうなんて……!)
シャーリィは叫び、宝玉から伸びる竜の躯に、必死に手を伸ばす。だが、その手は何の手応えもなく、竜の躯をすり抜ける。
「やめてえぇぇえぇっ!」
シャーリィの絶叫も空しく、竜は一瞬でアーベントの身体を喰らい尽くした。
一人、闇の中に残されたシャーリィは、呆然と立ち尽くし、涙を溢れさせる。
(ごめんなさい。ごめんなさい、アーベント。セラ姉さま……)