愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)
竜はアーベントを喰らい尽くしても、しばらくその場に留まっていた。
が、ふいにその身が歪み、形を変える。
それは一瞬で人の姿を取った。
先ほど消え去ったはずのアーベントの姿。怨嗟に歪んだその顔が、シャーリィを睨み、口を開く。
「……許さない、マリア・シャルリーネ。このまま、一方的に奪われただけで終わって堪るか。俺の想いと道連れに……死ね!」
直後、光は再び竜の形を取り、今度はシャーリィに向かって来る。シャーリィは目を見開いた。
避ける間も無く、シャーリィは光に包まれる。炎に灼かれるような痛みが、全身を駆け巡った。
悲鳴を上げながら、シャーリィは悟っていた。
(そうだったのね……。これが……他人の心を操ることの、代償。光の宝玉姫が、力の行使の後に心身を病むのは、こういうこと……)
シャーリィの脳裏に、母――否、ずっと母と信じてきた王妃の姿が浮かぶ。
事あるごとに床に伏せる、儚げな、かつての宝玉姫……。
(お兄様を救うためだもの。死さえ覚悟したのだもの。後悔は無い。でも……私、分かっていなかった。他人の心を操ることの非道さを……)