愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)
シャーリィは既に知っている。アーベントの、セラフィニエに対する、痛いほどに熱い想いを。
アーベントの記憶をたどると共に、まるで自分自身の想いであるかのように、それを味わったのだから……。
暗闇の人生の中に唯一灯った、宝物のように美しい恋心。
しかし、その想いは、もう跡形も無く失われてしまったのだ。
(そうね、仕方の無いことなのかもしれない。あれだけの想いを、私は消してしまったのですもの……)
罰を受け入れようとするように、シャーリィは目を閉じた。
その時――ふいに、誰かに腕を掴まえられる。
「え……?」
痛みが半減する。シャーリィは目を開き、驚愕した。
「……お兄様!? 」
「俺も、光の宝玉守りの資質を持つ者。操ることはできずとも、お前に力を貸すことくらいならできる。一人では負いきれぬ代償も、俺が半分、請け負えば……」
「そんな……待って、お兄様!これは全て、私の罪!半分だって、お兄様が背負う必要なんてない!」
「罪が有ろうと無かろうと、必要が有ろうと無かろうと、これが俺の意思だ。お前の命を、魂を、光の宝玉に奪わせはしない!」
その強い声に、シャーリィは瞳を見開く。
これまでとは別の意味で、涙が溢れた。
「戻ろう、シャーリィ。現の世界へ。もう、全ては終わったのだ」
言って、ウィレスはシャーリィの手を引く。
白金の竜も、身を灼く炎も、いつの間にか消え去っていた。そして……シャーリィの意識が、現実へと戻る。