愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)
30 謀略の後始末
「お兄様……」
ウィレスの腕の中で、シャーリィは目覚めた。
「大丈夫か、シャーリィ」
「……ええ。何だかひどく疲れているけど、大丈夫みたい……」
言って、シャーリィはアーベントに視線を移す。
アーベントは、別人のように呆けた顔でシャーリィのことを見つめていた。
「アーベント……」
名を呼ぶと、アーベントは弾かれたようにシャーリィのそばに駆け寄って来る。
「姫様、姫様……あぁ、何てお美しい……姫様……」
まるで他の言葉を忘れてしまったかのように、アーベントはシャーリィへの賛辞を並べ立てる。
それは、王妃の賛辞を口にする時のミルトに酷似していた。
シャーリィの顔が歪む。
「私は……何ということを……」
「お前のせいではない!お前は私を助けてくれた。そうだろう?」
庇うような優しい声。だが、シャーリィは涙を止めることができなかった。
精神世界で垣間見たアーベントの想いが――シャーリィがその手で奪い去った彼の想いが、痛いほどに心を苛み続ける。
「今は休め。あれだけの力を使ったのだ。相当に精神を消耗しているだろう。後のことはいいから、眠ってしまえ。私が、ずっとそばにいてやるから……」
優しく髪を撫でられ、シャーリィは泣きながら目を閉じた。
とても、安らかに眠れる気分などではなかったが……それでも、今のシャーリィにできることは、そうしてウィレスを安心させることだけだったから……。