愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)
シャーリィが再び目を覚ました時、ウィレスの顔は変わらずすぐそばにあった。
満月宮の、シャーリィの寝室。
ウィレスは身体のあちこちに包帯を巻き、切られて短くなった前髪の下に黒い眼帯をつけていた。
ただでさえ周囲を威圧するその姿に、まるで歴戦の猛者の戦いの痕跡のようなものまで加わり、余計に凄みが増して見える。
「目覚めたか、シャーリィ。身体の具合はどうだ?」
「……特に何も変わりはないみたい。お兄様は?」
「傷はどれも軽傷だ。痕が残ることもあるまい」
「どうして眼帯なんて……。目に怪我はしていなかったはずよね?」
なぜ、そこまでして顔を隠そうとするのか、シャーリィには理解できなかった。
そもそもそんなことをしていては、剣を扱うにも何をするにも不便だろうに……。
「……例の件は、表向きには、悪戯心を起こして王女と二人で抜け出したアーベントが、山賊の襲撃に遭い、宝玉の力を感知して駆けつけた私も、その戦闘に巻き込まれたということにしてある」
ウィレスはシャーリィの問いには答えず、別の話をしだした。
「真相を知るのは、父上と一部の重臣達だけだ。誰かに訊かれても、上手く話を合わせてくれ」
「分かったわ。……シュタイナー家に咎めが行くことはないのね?」
「ああ。咎めようにも、証拠が無い。アーベントはあの有様だし、正気に戻ったとして、口を割るとも思えんしな」