愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)
「……それでも、私はアーベントに、あの恋心を返してあげたい。あれは、他人が奪って良いものではないわ」
シャーリィはきっぱりと告げた。
「私……宝玉姫としての自覚が、まるで足りなかった。片恋姫の運命にばかり囚われて、この力の恐ろしさを、まるで分かっていなかったわ。他人の心を操るって、時に、命や自由を奪うより、ずっとずっと非道いことなのね」
言いながら、シャーリィは精神世界で垣間見た、アーベントの想いを思い出す。
「恋って、幸せなことばかりじゃない。辛いことも、痛いこともいっぱいある。だけど、それさえも全部ひっくるめて、その想いが生きる支えや人生の道しるべになったりするのね」
言って、シャーリィはウィレスを見る。シャーリィもまた、ウィレスのために、宝玉姫としての、王女としての運命を生きようと決めた。
たとえ恋を叶えることはできなくても、せめて、恋する相手の想いを叶えようと……。
「ねぇ、お兄様……。あの仮面舞踏会の夜に会ったのは、やっぱりお兄様なのでしょう?」
シャーリィは起き上がり、ウィレスに歩み寄る。
一度は目をつぶった真実に、改めて踏み込むために。
「もう誤魔化されてはあげないわ。だってその瞳、あの夜に見たのと同じだもの」
つまさき立ちして手を伸ばし、ウィレスの片目を隠す眼帯を、そっと外そうとする。
だが、ウィレスとシャーリィの身長差では、上手く眼帯の結び目に手が届かない。
外そうとして、上手く外せずにもたつくシャーリィに、ウィレスは諦めたように吐息して、自ら眼帯を外した。