愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)
ウィレスの厳しい言葉に、シャーリィは立ちすくみ、かぶりを振った。
シャーリィ自身、アーベントの心を縛ったことを後悔したばかりだ。あの聡い王妃にさえ思いつけない手段を、シャーリィが思いつけるとは、到底思えない。
「人は誰しも、過ちを犯す。その過ちを許さないのも、一つの道だろう。だが、それでお前に何の得がある?これまで母上と過ごすことで得てきた幸福や安らぎを、永遠に失ってしまうだけだろう。母上は、お前の実の母ではない。それに、お前が思ってきたような理想的な王妃でもない。だが、母上なりに国のことを真剣に案じ、お前のことを実の子同然に愛し、慈しんできた。それは本当のことだろう?」
シャーリィの頬を涙が伝った。声も無く、シャーリィは静かに泣き続けた。
それをそばで見守りながら、ウィレスはやっと、シャーリィの最初の問いに答えを返す。
「お前が実の妹でないと知って……その本当の出生を知って、お前を不憫に思った。お前が本当は何者であろうと、せめて私だけは、お前を愛し、守ってやろうと決めた。だが……きっと、それを強く想い過ぎたのだろう。いつしか私のそれは、家族に対する情を超えていた。ある日、レグルスに問われたよ。『お前は何故、妹をそんな目で見ているのか』と……」
言って、ウィレスは露になっていた片目を、手のひらで覆う。
「私は、感情を隠すのが不得手だ。お前への想いを捨てることもできない。顔を晒したままでは、いずれ露見してしまうと思った。私の想いが……。私がいつも、お前のことばかり見ているのが……」