愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)
「誰からも認められない恋でも、誰にも明かせない秘密の恋でも、私は構わないわ。それでも、だめなの?」
「王子も王女も、ふたりとも未婚のままでいるなど、許されるはずがない。それに……私自身が耐えられない。想いを通じ合わせれば、きっと一線を超えたくなる。そうなってしまえば……いずれ、全てが露見してしまう」
ウィレスの性格は、ずっと妹として生きてきたシャーリィが、一番良く知っている。
彼が一度決意したなら、それを翻すことはないだろう。
シャーリィはしばらく無言で、ウィレスの決意を受け止めた。
だが、このまま、ただ引き下がることはできない。それでは、あまりにも……この恋が哀し過ぎる。
「結ばれるつもりはなくても……一度きりの思い出なら、許すつもりだったのでしょう?あの仮面舞踏会の夜に……」
その夜のことに触れた途端、ウィレスがはっと息を呑むのが分かった。
シャーリィは淡く微笑み、片目を隠したままのウィレスの手に触れる。
「ねぇ、お兄様。あの夜の続きをしない?私も、思い出が欲しいわ。初めて好きになった人との思い出が……」
あの夜は、結局、唇には触れられぬまま……ただ手の甲に、熱いくちづけを刻まれた。
あの夜から、全てが変わってしまった。
「あの夜に戻って……今だけは、兄と妹ではなく、王子と偽物の王女でもなく……仮面舞踏会で出逢った、一組の普通の男女として、思い出を刻み直さない?」