愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)

「愛しているわ。……ウィレスターク」
 
 まるで初めて呼ぶように、シャーリィはその名を口にする。
 ウィレスは泣きそうに見える顔で微笑んだ。
「俺も、愛している、シャーリィ。だが……この想いは、今だけのものとして、忘れてくれ」
 
 逃がさないと言うように強く抱いた(うで)の力とは裏腹(うらはら)に、ウィレスは(こわ)れ物でも(あつか)うように、そっとシャーリィの(おとがい)を持ち上げる。
 されるがままに顔を上向けながら、シャーリィは思う。
 
(忘れてくれと言いながら、あなたはこの想いを(いだ)き続けるのでしょう?あの夜、言っていたものね。妻を(めと)るつもりはない、と)
 
 シャーリィの脳裏(のうり)に、あの仮面舞踏会の夜の会話が(よみがえ)る。
 
(それで、私には別の相手と結婚して子を産め、その子を次の王にしろだなんて……ずるい人)
 
 シャーリィの心に、ひそかな決意が芽吹(めぶ)き始める。それは、ウィレスにさえ明かすつもりのない、秘密の想いだ。
 
(私が忘れたフリをすれば、あなたは安心するのでしょう?だけど私、(あきら)めてなんてあげないわ。あなた以上に好きになれる人なんて、現れるわけないもの)
 
 ウィレスがずっと、シャーリィに想いを隠していたように……シャーリィもまた、ウィレスへの想いを秘めて、これからを生きていく。
 胸に隠して、誰にも見せない想いなら、きっと(とが)められることもない。
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