愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)
01 愛され聖女は片恋を厭(いと)う
大陸一の美しさを誇る、白亜の宮殿・満月宮。その地下には、厚い扉で幾重にも守られた地下宝物庫が存在する。
宮廷女官は今日も重い手押車を押し、その宝物庫へと続くスロープを下る。
慣れた手つきで錠を外し、中へと入った彼女達は、室内を見渡し、困惑したように眉を寄せた。
「……先輩。どこにしまいましょうか、これ。何だか、もう入れる場所が無いように見えるんですけど」
室内は既に、どの棚も隙間無く、宝物で埋め尽くされていた。
「無くても、何とかして入れるしかないでしょう。その辺に放り出しておくわけにはいかないんだから」
先輩と呼ばれた女官は、手押車に載せられた宝飾品に目をやり、ため息をつく。
藍青色の色石に、小粒ダイヤの星を散りばめて造られた天球儀。
細い銀線を編み上げ、羽根の一枚一枚までをも表現した小鳥の置物に、それを囲う金の鳥籠。
宝石細工の花束。
七色の光を弾き返す虹硝子のビーズと、純白の鳥の羽毛を織り交ぜた、総レースのストール。
これらは全て、ただ一人の姫君に捧げられた贈り物だ。
リヒトシュライフェ王国第一王女、マリア・シャルリーネ・エーデルシュテルン。
大陸一の美姫と謳われる彼女の元には、熱烈な求婚者達から毎日のように貴重な贈り物が届けられる。
彼女が生まれてから十四年。その数は既に宝物庫一室を埋め尽くし、それでもなお、留まることを知らず増えていく。
「それにしても……姫様って、一体どんな方なんですか?これだけの物を捧げられてらっしゃるんですから、相当に美しい方なんでしょうけど……その贈り物も、中身を確認しただけですぐに宝物庫行きだなんて、何だかもったいないって言うか……贈ってきた方々が可哀想です」
どこか皮肉を帯びたようなその声音に、先輩と呼ばれた方の女官は苦笑した。
「そうだったわ。あなたはまだ一度も、姫様にお目にかかったことがないのだったわね。一目見ればあなたも納得するわ。それはもう『光の宝玉姫』にふさわしい、輝くように美しい王女殿下なのですもの」
「『光の宝玉姫』か……。いいですよね、持つ者を美しく光り輝かせる宝玉なんて。美人に育つことを竜神様のお力で保証されてるわけじゃないですか。そのおかげで、恋人はよりどりみどり、贈り物だって数えきれないほどにもらって……。私も宝玉姫に生まれたかったですよ」
まだ少女と言っても良いくらいに若い後輩女官の、その言葉の中には、隠しきれない嫉妬の色がにじんでいた。