愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)
06 新たな騎士との出逢い

 ――大丈夫だ。俺が守るから。どんな敵からも、不幸からも、必ず俺が守るから。たとえ、お前が…………でも。だから、泣くな、シャーリィ。世界で一番可愛い、俺の……

「お兄様?何?私が何だと言うの……?」
 無意識のうちに口をついて出た自分の寝言に、シャーリィはハッと目を覚ました。
「……今の夢は……?」
 見慣れた自室の寝台の上で、ついさっき見た夢を思い出してみる。

 それは、まだ幼いシャーリィを(のぞ)き込み、そっと頭を()でてくれた少年の、優しい(ささや)きだった。
(あれは……私の幼い頃の記憶……?それも、相当昔だわ。お兄様が自分のことを『俺』と言っていたもの)

 少年の顔は、ぼやけていて、はっきりとは見えなかった。だが、それが兄であることを、シャーリィは何故(なぜ)だか確信していた。
(そう言えば、昔はまだお兄様の前髪も短くて、お顔がはっきり見えていたはずなのよね……。でも、思い出せない……。お兄様、どんなお顔をしていたかしら?そもそも、何故お兄様は、ご自分のお顔を隠すようになってしまったのかしら?)

 ウィレスが前髪を伸ばしだしたのは、ちょうど彼が思春期に入った頃のことだった。
 “美しさ”を力とする光の宝玉の守護国リヒトシュライフェの宮廷は、何かと身だしなみにうるさい。
 様々な人間が彼に注意を(うなが)したが、ウィレスが髪型を改めることはなかった。それどころか、服装もどんどん地味で飾り気の無いものになっていき……今や、一見すると一国の“王子”には見えないほどだ。

(お兄様、何を言っていたのかしら?肝心(かんじん)な部分が分からなかった。でも、何かとても重要なことだったような……)
 しばらく考え、だがシャーリィは無理だと(あきら)め、頭を振った。
(だめ。思い出せない。そもそもあれは、本当に私の『記憶』なのかしら。単なる夢ではなくて……)
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