愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)
「失礼だと言ったのは、そのことじゃないわ。私から言い出したことですもの。どんな無礼な感想でも、甘んじて受け入れるわ。でもね、あなたの言葉には、女性に対する偏見が透けて見える気がするのだけど……。あなた、『女は男をたぶらかす悪い生き物』みたいな先入観を、持っていないでしょうね?」
口を挟む隙も与えない、弾丸のような速度でまくし立て、これ見よがしに大げさなため息をついてみせると、アーベントは初めて戸惑ったように眉を寄せた。
「あの、そのようなことは断じて……しかし……中にはそういう女性も、実際に……いえ、ですが、全ての女性がそうだと思っているわけでは……」
先刻までの落ち着きが嘘のような、しどろもどろの言い訳。シャーリィは堪えきれず、くすくすと忍び笑いを漏らした。その様子にアーベントはハッと表情を変える。
「まさか……王女殿下、私をおからかいになったのですか?」
わずかに怒りをにじませたようなその声に、シャーリィはしれっと答える。
「あら、私はただ、教えてあげようとしただけよ。宮中では、本音はどうあれ、建前としてはフェミニズムが浸透しているの。女性を悪し様に言ったりしたら、すぐに敵を作ることになるのよ」
「それはそれは、ご指南痛み入ります。ですが、王女殿下に初めて拝謁し、緊張に震えている新人騎士に対し、そのような態度は、いささか行き過ぎかと存じますが?」
「よく言うわね。私が怒った顔をしてみせても平然としていた人が。あなたほど肝の据わった人、私は今まで見たことないわよ?特にさっきの『感想』。いくら思ったままを言えと言っても、あそこまで言う人はなかなかいないわ」
「それが私の性分ですので。お気に召されないのでしたら、これからは慎みますが」
「ほら、その言い方。あなたって、負けず嫌いなのね。王女に対してまでケンカ腰だなんて……。面白いわ。今まで私の周りにはいなかったタイプよ」
その言葉に、今度はアーベントが目を丸くした。
「お怒りにならないのですか?私を」
「まさか。むしろ嬉しいわ。これからも、どんどん思ったままのことを言ってちょうだい。王女だからと遠慮はしないで」
「……変わった方ですね。あなたは」
その呟きは、呆れているようにも、感嘆しているようにも聞こえた。
「あなただって変わり者じゃない」
両手を腰に当て、わざと怒ったようなポーズを作って言い返した後、シャーリィはにっこり笑って胸を張る。
「変わり者の王女と変わり者の騎士。良い組み合わせだと思うわ。私たち、きっと良い主従になれるわ。そうでしょう?」
アーベントは数度瞬きをした後、諦めたように苦笑を浮かべた。
「……そうかもしれませんね」
代々軍人の家系として知られるクライト侯爵家の次男であり、シュタイナー公爵家現当主の実姉を母に持つ青年、アーベント・クライト。
これが彼とシャーリィとの、初めての出会いだった。