愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)
07 求愛者と贈り物
出会いから数週間。シャーリィとアーベントの距離は急速に縮んでいった。
ただし、それはあくまで主従として。あるいは“仲の良い友人”としての距離で、互いを恋愛対象として意識しているわけではなかった。
だが、シャーリィにとっては“仲の良い異性の友人”ができたというだけでも、充分に新鮮で楽しいものだった。
日が経つごとに、アーベントのシャーリィに対する言動は、どんどん遠慮をなくしていく。その言動は毎度シャーリィに驚きを与えたが、決して不快なものではなかった。
アーベントが現れるまで、彼女に対等な口の利き方をしてくれる人間などほとんどいなかった。王族としてそれが当たり前のことなのだとは知っていても、やはりシャーリィは寂しかった。
心のどこかでは憧れ、求めていたのだ。思ったことを素直にぶつけ合える『友人』という存在を。
「お待たせ、アーベント。お散歩に行きましょう」
長かった宝玉操術の講義を終え、シャーリィはいつものようにアーベントに声を掛ける。
アーベントはちらりと廊下に置かれた時計に目をやり、眉を寄せた。
「よろしいのですか?先ほどの授業、少し時間が延びてしまったようですが……ここでいつも通りに休憩を取られては、次のクラヴサンのレッスンに間に合わないのでは?」
「いいの。こんなに疲れた頭でレッスンを受けても、身が入らないわ。先生には事情を話して分かってもらうから大丈夫よ」
「またいつものように、にっこり微笑って誤魔化されるわけですか。前々から思っていたのですが、そういうのを宝玉の濫用と言うのでは?」
「あら。これだって光の宝玉姫としての修行の一環よ。光の宝玉姫たる者、微笑み一つで他者に言うことを聞かせられないようでは、いざという時、話にならないわ。光の宝玉姫の笑顔は、立派な武器の一つ。私はこの微笑みで、友好国との関係を強化し、民衆の支持率を上げ、国を守っていかなくてはいけないんですからね」
「……相変わらずよく回るお口ですが、それは先ほどの授業の受け売りですか?」
図星をつかれ、シャーリィはかっと頬を赤らめた。
「もうっ、アーベントの意地悪。そういうことには気づかない振りをしていてよ」
振り返り、アーベントに向けて拳を振り上げる真似をしたその時、二人の会話に割り込むように、若い男の呼び声が響いた。