愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)
「……よろしかったのですか?姫君の薔薇冠と言えば、今、若い貴族の娘たちの間で話題になっている香水でしょう。原料が特別なために数が限られていて、一国の王族ですら、伝手が無ければ入手困難と言われている……」
子爵の姿が見えなくなったところで、アーベントがこっそり訊いてくる。
「いいのよ。同じ人から高価な贈り物を受け取るのは、三度までと決めているの。どんなに値が張ろうと稀少な品だろうと、変えるつもりは無いわ」
きっぱりと言い切るシャーリィに、アーベントはけげんそうに首をひねった。
「なぜ“三度”なのか、伺ってもよろしいですか?」
「……一度も受け取らないのでは、情の無い王女とそしられるか、『自分は王女の眼中にも入らない無価値な人間なのだ』と、相手を絶望させてしまう。二度目を断れば、一度目は受け取ったのにと言い返されてしまう。かと言って、際限無く受け取っていたのでは、贈り物がどんどんエスカレートしていって、最後には贈った相手が破産するわ。だから、三度までにしているの。三度受け取れば、後はもう『これ以上贈り物を頂くのは悪いから』と断れるわ」
その説明に、アーベントは呆れているのか感嘆しているのか分からない相槌を返してきた。
「……大変なのですね。光の宝玉姫というのも。ほぼ毎日のように贈り物を頂いていらっしゃるというのに、誰から何回頂いたのかまで覚えていなければならないなんて」
「もう慣れたわ。物心ついた頃から、ずっとだもの」
答えるシャーリィの表情は、心なしか沈んで見えた。アーベントはその様子に気づいているのかいないのか、ふいに話題を変えてくる。
「姫様の理想の方というのは、どのような方なのですか?」
「え……?」
「私が姫様付きの騎士に着任して以来、姫様が言い寄る男たちを上手にあしらわれるところは、何度も拝見していますが、お心を通わされているような場面には、一度も遭遇したことがありませんので。興味がございます」
「上手にあしらうって、その言い方はいただけないわね……」
アーベントの物言いに、一応は怒ったような態度を示しながらも、シャーリィはアーベントの問いについて頭を巡らせてみる。