愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)
「そうね。私の理想は……まずは光の宝玉の魅力に惑わされない人。それから、私のことを理解してくれる人。それから……」
――大丈夫だ。俺が守るから。どんな敵からも、不幸からも、必ず俺が守るから。たとえ、お前が…………でも。だから、泣くな、シャーリィ。世界で一番可愛い、俺の……
ふいに脳裏に蘇った優しい少年の声に、シャーリィははっと目を見開く。
(え……?そうなの?私の理想って……もしかして“お兄様みたいな人”なの?)
「どうかなさったのですか?」
不思議そうに顔を覗き込まれ、シャーリィの心臓がどきりと跳ねる。
「いいえ。何でもないわ」
動揺を見抜かれぬよう、慌てて首を横に振る。
(嫌だわ、この歳になって、まだ『お兄様大好き』なんて。周囲からヘンな目で見られてしまうじゃない)
気持ちを落ち着かせるように、いつもの東屋に腰を下ろし、シャーリィはふっと深呼吸する。
アーベントはいつものように、その近くに控えていたが……ふと何かに気づき、すっと指を動かした。
「ああ『貴婦人の耳飾り』が咲いてますね」
「え……?」
アーベントは、東屋の近くの花鉢から一つの花を摘んでくる。その名の通り、優美なイヤリングのような形をしたその花は……
「ほら、これ。確かそんな名前でしょう?ああ、そうだ。それは二つ名の方で、正式名称は確か……釣浮草」
「………………っ」
差し出された花を、反射的に受け取ろうとして、だが、シャーリィの指先は凍えるように震えた。
それはあの日、フローリアンから受け取れなかった花。あの日咲いていた花とは違う遅咲きの品種だが、確かに同じ釣浮草の花だった。