愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)
『光の宝玉』――それは太古よりこの大陸に伝わる、竜神の力を秘めた九つの宝玉のうちの一つ。
それぞれ異なる力を秘めるその九つの宝玉は、あるものは兵の力を倍増させ、あるものは土塊を金塊に変え、またあるものは持ち主に過去や未来を視る力を与える。
人々はそれらの宝玉の下に国を築き、栄えていった。
そして九つの宝玉は、代々それぞれの国の高貴な姫君の手により守られてきた。
宝玉を守護する運命を背負った、その姫君の名は『宝玉守りの姫』。
そして、ここリヒトシュライフェ王国の宝玉守りの姫は、その守護する宝玉の名をとり『光の宝玉姫』あるいは『光の宝玉守り』などと呼ばれている。
光の宝玉の秘める力は『魅了』。
持つ者を美しく光り輝かせ、見る者を否応なしに惹きつけるその魅力は、時に敵国の将兵から侵略の意思を失わせ、国を救うほどの威力を持つ。
だから、この国に生まれた少女であれば、誰もが一度は夢見、羨むのだ。『私も光の宝玉姫になれたら……』と。
だが、それと同じくらいの頻度で囁かれ続けた、まるで逆の言葉がこの国には存在する。
「そんなことを言って。あなた『片恋姫 』になりたいの?」
その言葉を聞いた途端、後輩女官の口元が引きつった。
「え……っと、それはもちろん、嫌ですけど……」
光の宝玉姫になってみたい。でも『片恋姫』になるのは嫌だから、やっぱりなりたくない。
それがこの国の少女たちの、数十年、いや数百年の昔より変わらぬ口癖。
光の宝玉姫は、老若男女問わず数多の人を惹きつける。けれど、光の宝玉姫本人が一番に想う相手とは、決して結ばれることはない――必ずいつも最後には、片恋のまま終わる『片恋姫』。
これは、いつの頃からか囁かれ続けるジンクス。根拠の無い、だが、初代から連綿と続く光の宝玉姫の系譜の中で、ただの一度も破られたことのないジンクスなのだ。