愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)
(……そうだったわ。もし本当に、アーベントに恋ができたとしても……片恋姫の私の恋が実ることなんて、無い)
俯いてしまったシャーリィの頭に、ウィレスがそっと手を伸ばした。だが、その指は触れる寸前で止まる。
しばし躊躇うように視線をさまよわせた後、ウィレスは結局手を引っ込めた。代わりに、無愛想な声で告げる。
「まだ何かあると決まったわけではない。そんな顔をするな。片恋姫など、単なるジンクスに過ぎない。ジンクスとは、いつかは破れるものだ」
「そう……かしら」
「そうだ。だが、お前当人がそのような弱気では、破れるものも破れぬだろうがな」
「……そうね。そうよね。最初から諦めるなんて、馬鹿げているわよね」
シャーリィは自分自身に言い聞かせるようにそう呟いた後、晴れ晴れとした笑顔を兄に向けた。
「ありがとう、お兄様」
ウィレスはそんな妹の笑顔から、そっと目を逸らした。