愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)
09 儚げな王妃
王妃の寝室は、落ち着いたオールドローズの色で統一されている。
アーベントを廊下に残し入室したシャーリィは、母の寝台の脇に座る男の姿に、呆れた顔をした。
「お父様。相変わらず、ここにいらっしゃるのですね」
「おお、シャーリィ。久しいな。ますます妃に似てきたではないか」
「ええ。お久しぶりです。お父様がずっとここに籠もりきりなせいで、最近では滅多にお会いできませんでしたものね」
「お前まで、そのようなことを言うのか……っ。勘弁してくれ。昨日も宰相に説教されたばかりだと言うのに」
銀髪を掻きむしり、大袈裟に嘆いてみせる国王の横で、くすくすと柔らかな笑い声が響いた。
「娘にまで説教されるなんて、困った父親ですわね、陛下」
そう言っておっとり微笑むのは、シャーリィによく似た面差しの、だがシャーリィとは違う、深い菫色の瞳を持つ女性。
プラチナブロンドの髪を一本のゆるい三つ編みに結び、ネグリジェにガウンという姿で寝台の上に身を起こす、ひどく儚げな印象のその人が、シャーリィの母であり、この国の王妃でもあるマリア・イーリスだった。
そして、その寝台の横に座る、齢四十を超えながらも尚、若かりし頃の華やかな美貌の面影を残した銀髪碧眼の男が、リヒトシュライフェ国王ルーカス・エーデルシュテルン。