愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)
「いいえ。お気に病まないで下さい。お母様には、私達の心配をするより、ゆっくりと休んで早くお元気になって頂かなくては……。あ、そうでした、今日はお母様のために、素敵なお見舞いを連れて来たのですよ。はい、どうぞ」
「え?あら、ジーナ」
膝の上に猫を受け取り、イーリスは瞳を輝かせる。その様子に、シャーリィも嬉しくなる。
母はいつも、今にも消えてしまいなほど儚げに見えて、シャーリィは会うたびに不安になる。
この部屋に籠もり、母につきっきりでいる父の気持ちも、シャーリィには分からないではなかった。
「シャーリィ、私が床についてから、リヒトシュライフェに何も変事はありませんか?エンヨウとの国境に変化は?部屋に籠もってばかりでは、外のことが何も分からなくて……」
ジーナの背を指で優しく撫でながら、イーリスが問う。
身体が弱く、公務は滅多にできないものの、彼女は国のことを真剣に案じる、誠実な王妃だった。
「いいえ。何も。お兄様が立派に政務をこなされてますもの。エンヨウも、今は表面上、何もしてきていませんし」
「そうですか。安心しました」
イーリスは、ほっと安堵の息をつき、それからふっと表情を変えた。
「そう言えば、ルードルフ達の状況に、何か変化はありましたか?」
母の口から出たその名に、シャーリィはわずかに身構える。
それは、イーリスの妹……すなわちシャーリィの叔母と、かつてイーリスの想い人だったという男との間に生まれた、一人息子。シャーリィと同い年の従弟の名だった。