愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)
イーリスとその妹マリア・リーリエの間に、過去何があったのか、また、かつての想い人との間には、もう何も無いのか、シャーリィは知らない。恐くて訊くこともできない。
だが、イーリスは妹夫婦とその息子のことを今でも案じ、その近況を常に知りたがっている。
「あ、その……何も変化は無いようです。シュピーゲル家もシュベルター家も、依然として叔母様達の結婚を認めては下さらないそうで……、勘当も解けていないようですし。相変わらず両家とも、ルーディ……ルードルフがどちらの家に属するかで揉めているようです。叔母様達は、今もまだ、庶民同然の暮らしをしてらっしゃるそうで……」
シュピーゲルとシュベルターは、ともにリヒトシュライフェ七公爵家に属する家。問題の二人は、それぞれの家の当主となるべき後継者だった。
シュピーゲル家は、イーリスが王妃となり家を出たため、残された妹リーリエに婿をとらせ、家を継がせるつもりだった。
だが、リーリエが選んだ相手は、よりにもよってシュベルター家の次期当主。おまけにシュベルター家にとっても、彼は唯一残された直系の後継者だった。
二人が結婚すれば、どちらかの家の後継者がいなくなる。
そして両家は二人がどちらの家を継ぐかで揉めた末、二人の結婚を許さないという結論に達した。
だが、二人は「勘当する」という親達の脅しにも屈せず、二人で家を出、ルードルフを産んだ。
生まれた子は、銀髪に紫の瞳の愛らしい男の子で、孫のあまりの可愛さに、親達の勘当も解けるかと思われた。ところが、今度は両家がルードルフにどちらの家を継がせるかで争い始めた。
リーリエ夫妻とルードルフの必死の説得もあり、かろうじて内乱には発展していないものの、両家の間では、今も水面下で激しい争いが繰り広げられている。