愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)
(七公爵家の娘だったから、お母様は国王の求婚から逃れられなかった。ご自分の生まれを、嘆いてらっしゃるの?お母様)
「シャーリィ、あなたは幸せですか?」
ふいに向けられた質問に、シャーリィはすぐには反応できず、ただ目を見開いた。
「光の宝玉姫としての使命を、重く感じることはありませんか?その運命から、逃げ出したいと思うことは……?」
イーリスの目は、真剣だった。シャーリィも表情を引き締める。
わずかの間考えてから、シャーリィは慎重に言葉を紡いだ。
「正直に申し上げれば、重いと感じることはあります。ですが、私はまだ、宝玉のもたらす不幸を、実際に身をもって味わったわけではありませんから。たぶん、歴代の宝玉姫の方々に比べたら、幸せな方なのだと思います」
「でも、不安はあるのでしょう?若い娘にとっては、あまりにも残酷な運命ですもの。世界の平和のために、自分の恋を犠牲にしなければならない運命なんて」
「お母様……」
イーリスは穏やかに微笑み、シャーリィの髪に手を伸ばした。
「覚えておくのですよ、シャーリィ。たとえ、運命があなたに不幸を強いるのだとしても、人という生き物は、その運命すら変える力を持つことができます。知恵を磨き、柔軟な心を身につけなさい。そして、運命にぶつかったなら、その運命を破る方法を、自分自身に問うのです。どんなに困難に思えても、道は必ずどこかにあるはず。その道を見出す術を、身につけておくのです。片恋姫の運命に、負けてしまうのか、打ち克つことができるのか……それを決めるのは、あなた自身なのですよ、シャーリィ」
シャーリィは呆然と母の顔を見つめた。その顔が一瞬、泣きそうに歪んだ後、すぐに笑顔に変わる。
「はい!必ず覚えておきます。ありがとうございます、お母様」
イーリスは、応えるように微笑んだ。
だがその微笑みは、シャーリィが会話を終え寝室を去った途端、消え失せる。
シャーリィの出て行った扉を見つめたまま、彼女はひっそりと呟いた。
それは、誰も聞くことのない、苦い悔恨と、わずかの諦めを含んだ呟き。
「そう。たとえ運命に打ち克つことで、失ってしまうものがあるとしても……。選ぶのは、あなた自身なのよ、シャーリィ」