愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)
「公務が予定より早く終わったから、猫達と遊びに来たの。でも、まさか、あなたがいるなんて。あなた、本当に猫が好きなのね」
微笑みながら歩み寄ってくるシャーリィに、アーベントは恥ずかしい所でも見られたように、気まずげな顔で膝の上の猫を下ろした。
「恥ずかしがらなくていいって言ったじゃない。猫好きなんて、リヒトシュライフェ国民なら普通のことよ?」
笑って言いながら、シャーリィはアーベントの膝から下ろされた猫を抱き上げ、再び彼の膝に乗せようとする。
「恥ずかしがっているわけではございませんよ」
言いながらアーベントは、猫を膝に乗せようとするシャーリィを止めようと、手を伸ばした。二人の手が、一瞬触れる。
「……あ」
一瞬で顔を真っ赤に染めたシャーリィは、過剰なほどに反応して、アーベントから距離をとる。
アーベントは呆気にとられたようにそれを見ていたが、やがてシャーリィの心を見透かしたような、意味ありげな笑みを浮かべた。その笑みに、シャーリィはますます顔を赤くする。
二人の間に、しばしの沈黙が流れた。それを破ったのは、猫の鳴き声と、それに続いたミルトの冷静な声だった。
「姫様、ジオが苦しがっております」
シャーリィは、はっとして己の腕の中の猫を見る。
無意識のうちに猫を抱く手に力が籠もり過ぎていたようで、猫はシャーリィの腕から逃れようとするように、じたばたともがいていた。
「ああっ、ごめんなさい、ジオ」
シャーリィは猫を床に下ろすと、謝罪するようにその頭を撫でた。
それから、そろりと視線をアーベントに戻す。アーベントはシャーリィを見つめ、苦笑していた。
「……出ましょうか、姫様。私が護衛しますので、中庭の散歩などいかがですか?」
差し出された手に、シャーリィはしばし躊躇った後、頬を染めてそっと手を重ねた。