愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)
「それは違います。そんなはず無いではありませんか。たとえ宝玉の魅力に惑わされたのだとしても、姫様に無礼を働くのは許されることではない。今日のことだって、悪いのはあいつらの方です」
「でも……私はもしかしたら、あの人達を殺してしまうのかもしれないわ」
シャーリィは沈んだ声で呟いた。
「は……?」
「私は、あの人達に『決して好きになることはない』と言ったわ。あの人達に、絶望を与えた。光の宝玉の魅力にとりつかれた人達にとって、私の存在は絶対のもの。そんな私から、あんな言葉を投げつけられて……あの人達はこの先、生きていけるのかしら。あれは、言ってはいけない言葉だった。それを私は、怒りに任せて言ってしまったの。……光の宝玉姫失格ね」
「そんなことはありません!」
言葉とともに、気づけばシャーリィは、アーベントの腕の中に抱きしめられていた。
「え……」
突然のことに頭が働かず、シャーリィはただ意味のない声を上げる。
「強がらなくていいんです。怒ればいいではありませんか。悲しめばいいではありませんか。あなたは殺されかけたんですよ?身勝手な男達に」
「アーベント……」
「光の宝玉姫だからと言って、何故、自分を殺そうとした人間のことまで、思いやらなくてはいけないんです?理不尽な運命を、何故、諦めたように受け入れるんです?こんな時くらい、本音を言ってもいいではありませんか。あなたはまだ、十四の女の子なんですよ?」
熱い腕と熱い言葉に、シャーリィの目にじわりと涙がにじむ。
「言っても、いいの?ワガママな子だと思わない?光の宝玉姫に相応しくないって、王女としていけないことだって、思わないでいてくれる?」
「当たり前です。私はあなたの騎士なんですよ?国の威信より、貴族としてのモラルより、あなた自身の方が大事です。あなたのお命だけでなく、その御心もお守りしたいのです。あなたの弱音は、私だけの胸に収め、口が裂けようと誰にも口外致しませんから」
――守るから。どんな敵からも不幸からも、必ず俺が守るから。
アーベントの言葉に、記憶の中の兄の声が重なる。
シャーリィは堪えきれず、アーベントの胸にしがみついて泣き出した。もう何年も、他人の前では零したことのない涙だ。
「もう、嫌なの。宝玉姫なんて、辞めてしまいたい」
「辞めてしまえばいいじゃないですか。代わりならいる。あなたが逃げ出したとしても、まだこの国には、光の宝玉姫となれるリヒトシュライフェ七公爵家のご令嬢が何人もいらっしゃるのですから」
嗚咽混じりの弱音に、アーベントが髪を撫でながら、優しく囁く。
「駄目よ。そんなこと、許されるはずがないわ。王女が責任を放り出して、逃げ出すなんて……」
「ですが、あなたは光の宝玉姫になりたくてなったわけではないのでしょう?生まれた時には勝手に決められていた。『片恋姫』の運命も」
シャーリィはハッと顔を上げる。アーベントはシャーリィの頭上で皮肉な笑みを浮かべていた。