愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)

「光の宝玉姫である限り、あなたが誰と恋に()ちようと、その恋は叶わない」
「……やめて。言わないで」

「おそらく、その通りなのでしょうね。例えば、もしあなたが私を想って下さったとしても……そして、私がどんなにあなたのことを想っていても、その想いが実ることはない」
 告げられた言葉に、シャーリィは愕然(がくぜん)と目を見開いた。

「何を……言ってるの、アーベント」
「違うと(おっしゃ)るのですか?私は少し自惚(うぬぼ)れているのですが。姫様が、私にほんのわずかでも好意を抱いて下さっているのだと」
 涙に()れたシャーリィの顔が、一瞬で赤くなる。

 今までの態度から、アーベントを意識していることを、本人に悟られていたとしても全く不思議はない。だが、こうもストレートに()いてこられるとは思ってもみなかった。

「あ、その、それは……。そ、それより、あなたが私を想っているって……」
 うろたえて、意味の無い言葉を並べた挙句(あげく)、シャーリィはアーベントの問いには答えず、逆に問い返した。だがアーベントはうろたえもせず、平然と認めてみせる。

「はい。お(した)いしております。申し上げておきますが、宝玉に惑わされたせいではありませんよ。私には宝玉の魅力(ちから)は効きませんから」
 あっさりと、笑みさえ浮かべて告白され、シャーリィは一瞬、(ほう)けた。

 それは、ずっと夢見ていた瞬間だった。光の宝玉の魅力(ちから)のせいではなく、ありのままのシャーリィ本人を好きになってくれる人間。それを、シャーリィはずっと待ち望んでいたのだ。

「ですが、姫様が宝玉姫であられる限り、私達が結ばれることはないでしょう。たとえ想いが通じ合っていたとしても」
 ふいに表情を沈ませたアーベントに、シャーリィは戸惑うように問う。

「……何故(なぜ)?あなたは侯爵家の次男で、七公爵家の血も引いているのでしょう?身分がつり合わないことなんて無いはずよ?」
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