愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)

「あなたは、不公平だと思ったことは無いのですか?なりたくてなったわけでもないのに、光の宝玉姫などという運命を、勝手に押しつけられて。なのに、リヒトシュライフェ七公爵家の令嬢方は皆、あなたのことを(うらや)(ねた)んでいる。あなたさえいなければ、自分が光の宝玉姫に選ばれたかもしれないのに、と。そんなに欲しいなら、くれてやればいいじゃないですか。片恋姫の運命ごと」

「やめて。それはいけないことよ。言わないで……」
 シャーリィは耳を(ふさ)ぎ、首を振る。アーベントの言葉は、まるで甘い毒のようだった。

 それは、シャーリィがいつも心の底で思っていること。ひそかな願望だ。だから、聞いてはいけない。

「これは、私の願いでもあります。あなたにその身分と、片恋姫の運命を捨てて欲しい。あなたが王女である限り、私はあなたと結ばれることはできません。全てを捨て一介(いっかい)の剣士となった私が、王女殿下を妻に迎えられるはずがない」
 シャーリィは目を見開いて、アーベントを見る。アーベントは真剣な眼差(まなざ)しでシャーリィを見つめていた。

「もし、あなたが私を想ってくれると(おっしゃ)るなら……全てを捨て、私を選んでは(いただ)けませんか?王宮のような贅沢(ぜいたく)な暮らしは無理ですが……決して不幸には(いた)しません。あなたを、一生大事にお守り致しますから……」
「それは……」

 シャーリィは、何も答えることができなかった。頭の中が真っ白で、何も考えが浮かばない。

 アーベントは、しばらくじっと、そんなシャーリィを見つめていたが、やがて唐突(とうとつ)に身を離した。

「すみません。無礼を致しました」
「え……?あ、いいえ。無礼だなんて……」
 うろたえるシャーリィの顔を(のぞ)き込み、アーベントは告げる。真剣なままの眼差しで。

「答えは、すぐにとは申しません。ゆっくりお考え下さい。ですが、覚えていて下さい。私は、あなたが想いに(こた)えて下さるなら、この国を敵に回しても(かま)いません。必ずあなたを王宮から(さら)って逃げてみせます」

 シャーリィは、その目を直視することができず、無意識に目を()らした。
 だから、気づかなかった。シャーリィが目を逸らした後、彼が表情を変えたことに。

 それは、シャーリィが今まで目にしたことのない顔。(くら)い想いを胸の底に隠しているかのような、どこか(いびつ)な微笑みだった。
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