愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)
13 優美なる公爵令嬢
「いやぁ、しばらく見ない間に、また美人さんになったねぇ、シャーリィ姫は」
渡された服に袖を通しながら、レグルスはからかうような目でウィレスを見た。ウィレスは不機嫌に口を開く。
「……何が言いたい」
「その後、何か進展はあったか?シャーリィ姫も、もう十四。そろそろお年頃だろう?」
「進展などあったら問題だろう。第一、俺はシャーリィのことを、そのような目で見てはいない。何度言ったら分かるのだ。俺とシャーリィは兄妹なのだぞ」
「兄妹、ねぇ……」
レグルスは意味ありげに笑った。ウィレスの機嫌は、ますます悪くなる。
「他国の内情を探っている場合ではないだろう。お前の方こそ、どうなんだ。いつまで逃げているつもりだ?」
その問いに、レグルスの口元から笑みが消えた。
「……逃げているわけじゃない。俺が国にいると、レアのためにならないから」
絞り出すような声で囁かれたその名は、レグルスの妹の愛称だった。
ミレア・レイニ。ミレイニの次期女王であり、現宝玉守りの姫である王女の名だ。
国の中枢にいる人間達の思惑により、二人が非常に複雑な立場に立たされていることを、ウィレスは知っている。
「ミレイニは女王政の国だから、王位継承権はあちらの方が上なのだろう?」
「ああ。でも俺、人気者だからさ。特に、反女王派の連中には。民に交じって金を稼ぎ、民の声を広く聞く、庶民派の王子様だって。大陸中を旅してるから、他国の事情にも精通してて、国を率いていくに相応しいって。レアのために王子の座を棄てようとしたのに、それが逆にレアを苦しめることになるなんてな……」
「……その後、ミレア姫とまともに話をすることはできたか?」
レグルスは首を力無く横に振る。
「俺、レアに嫌われてるから。いつもふざけたこと言って、レアを怒らせてばかりだし、レアの前に立つと、どうも卑屈になっちまうし。……結局、コンプレックスが消えてないんだよなぁ」
言いながら、レグルスは自嘲するような笑みを頬に刻む。