愛され聖女は片恋を厭う（宝玉九姫の生存遊戯１）

「なぁ、ウィレス。お前はシャーリィ姫のことを、今まで一度でも疎(うと)ましく思ったことはないのか？……この世界では、宝玉姫が全ての中心だ。王子や国王と言えど、男は宝玉姫を守っていくための道具でしかない。王女の誕生は国民全員から盛大に祝福されるが、王子の誕生は失望を招く。……王女は宝玉守りの姫にも女王にもなることができるが、王子では決して宝玉守りの姫になることはできないからな」

「無いな」
　ウィレスは即答した。

「すまないが、この件に関しては、お前に同意してやることができない。俺は自分がシャーリィを守るための道具でも構(かま)わないと思っているからな。……決めたのだ。シャーリィを守ってやると、ずっと昔に。だから、俺は王になる。王になり、この国ごとシャーリィを守る。たとえ、王として相応(ふさわ)しくなかろうとな」

　それはレグルスの思いとは真逆の言葉だった。だが、なぜかひどく清々(すがすが)しく、彼の耳に響いた。

（なんで、そこまで口にして、シャーリィ姫のことを、ただの妹だなんて言えるんだろうな、こいつは）
　呆(あき)れたように思いながらも、口に出すことはせず、レグルスは別の言葉を口にした。

「相応(ふさわ)しくないなんてことは無いだろ？お前ほど優秀で努力家な王子は、そうそういないぜ？」
「いや。俺には王の資格など無い。俺は……たった一人の人間のために、全てを捨ててしまえるような男だ。国とあいつとを天秤(てんびん)にかけられたら、俺は迷わずあいつを選ぶ。だから、相応(ふさわ)しくなどないのだ」

「お前は真面目に考え過ぎだと思うがな。王なんて、わりといい加減な奴も多いぞ。実際、言っちゃ悪いが、お前の親父さんだってそうだろ？それに比べりゃ、少なくとも国の将来について真剣に考えてるお前の方が、ずっとマシだと思うがな。それに、そうそうあるはずないだろう？国と宝玉姫とを秤(はかり)にかける事態なんて」
「……そうだな」

　ウィレスは、ただ無表情に頷(うなず)いた。