愛され聖女は片恋を厭う(宝玉九姫の生存遊戯1)
数日後、満月宮ではミレイニ第一王子の訪問を歓迎して、華やかな仮面舞踏会が催されることになった。
他国の王族の訪問ということもあり、宮廷貴族のみならず、地方の領主達まで招いての盛大な宴。
シャーリィはその日の午前のうちから、地方から上京してきた貴族の子女達の挨拶を受け続け、三時のお茶の時間の頃にはもうすっかり疲れ果てていた。
「勘弁して欲しいわ、まったく。挨拶なら、舞踏会が始まってからでもいいじゃない」
紅茶を一口すすり、シャーリィはアーベントに向けてぼやいた。今日のお茶は、気分を変えて中庭の東屋でとっている。
「それですと、相手が誰か分からないのでは?本日は仮面舞踏会ですし」
「ああ、そうだったわ。仮面舞踏会なんて……派手好きなお父様らしいご趣味だけど、面倒なことを」
渋面を作るシャーリィに、アーベントは意外そうな顔をした。
「姫様は仮面舞踏会がお嫌いなのですか?貴族のご令嬢方は、皆お好きなのだと思っておりましたが」
「それは、私以外の人にとってはそうでしょうね。正体を隠して、恋の鞘当てを楽しむなんて、とても刺激的だと思うもの。でも、私の場合は……」
言いかけた言葉は、突然現れた女官の言葉により遮られた。
「失礼致します、シャルリーネ姫様。姫様にご挨拶したいと仰る方がお見えですが、いかがなさいますか?」